子宮頸がんワクチン
がん予防ワクチン接種
国立がん研究センターの発表によるとがんの原因は、
- 喫煙
- 飲酒
- 食物・栄養
- 身体活動(運動不足)
- 体格(肥満)
- 感染
- 化学物質
- 生殖要因とホルモン
が挙げられていますが、感染は、日本人のがんの原因の約20%を占めると推計されます。
感染の内容として、日本人では、B型やC型の肝炎ウイルスによる肝がん、ヒトパピローマウイルス(HPV)による子宮頸がん、ヘリコバクター・ピロリ(H. pylori)による胃がんなどがその大半を占めます(表)。他には、エプスタインバーウイルス(EBV)による悪性リンパ腫や鼻咽頭がん、ヒトT細胞白血病ウイルスⅠ型(HTLV-1)による成人T細胞白血病リンパ腫などがあります。
感染による発がんのメカニズムは、ヒトパピローマウイルスのように、感染体が作り出すがん原性タンパク質による直接的な作用や、慢性の炎症に伴う細胞の壊死(えし)と再生による間接的な作用などが報告されています。
■がんの発生に関係するウイルス・細菌
原因となる ウイルス・細菌 |
がんの種類 | 検査方法 |
---|---|---|
ヘリコバクター・ピロリ(H.pylori) | 胃がん | 抗体検査、尿素呼気試験、組織検査 |
B型・C型肝炎ウイルス(HBV、HCV) | 肝臓がん | 血液検査(抗原、抗体検査) |
ヒトパピローマウイルス(HPV) | 子宮頸がん、陰茎がん、外陰部がん、膣がん、肛門がん、口腔がん、中咽頭がん | 細胞診 |
エプスタイン・バーウイルス(EBV) | 上咽頭がん、バーキットリンパ腫、ホジキンリンパ腫 | 血液検査(抗体検査) |
ヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV-1) | 成人T細胞白血病/リンパ腫 | 血液検査(抗体検査) |
■感染経路
ヘリコバクター・ ピロリ (H.pyiori) :幼児期における親からの口移し ・井戸水等による感染
B型・C型肝炎 ウイルス (HBV、HCV) :主に血液感染 ※注射の回し打ち、タトゥー・ピアス等の針の使い 回し等。母子感染はワクチンによる対策がとられています。 B型は性的接触を介しても感染
ヒトパピローマ ウイルス(HPV):性的接触による感染。
~新型コロナウイルス感染の時代、がんもワクチンで予防できるようになりました!~
子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)
子宮頸がんは、ヒトパピローマウイルス(HPV)への感染を原因とするがんです。
約100種類あるHPVのうち、発がんに関わる15種のウイルスは性的接触によって感染し、男女を問わず性交経験のある人の8割が一生に一度は感染します。ただし、感染してもウイルスは2年ほどで自然に体外に排出されるのがほとんど。ウイルスが排出されず、数年から十数年にわたって持続的に感染した場合、一部が前がん病変につながり、さらにその一部が子宮頸がんに進行します。
しかし、子宮頸がんは原因がウイルスであるため、ワクチンで予防することが可能です。国内で承認されているHPVワクチンには、2価と4価と9価の3種類があります。
2価ワクチン「サーバリックス」(グラクソ・スミスクライン)は子宮頸がんや陰茎がんの主要な原因となるHPV16型および18型(高リスク型HPVに含まれるもの)に対するものであり、一方4価ワクチン「ガーダシル」(MSD)は16型・18型だけでなく、尖形コンジローマの原因となる6型・11型(低リスク型HPVに含まれるもの)を含む4つの型に対するものです。いずれも子宮頸がんの原因の65%を占めるHPV16、18型への感染を予防するもので、4価ワクチンはさらに、尖圭コンジローマの原因となるHPV6、11型にも対応しています。
さらに、MSDが2021年2月に発売した9価HPVワクチン「シルガード9」は、ガーダシルが対応している4つの型に加え、5つの型(HPV31、33、45、52、58型)に対応。子宮頸がんの原因となるHPV型の88.2%をカバーできるようになりました。
医療法人杉原クリニックでは、高リスク型HPV、低リスク型HPVどちらに対しても予防効果が期待できるガーダシル(4価HPVワクチン)を推奨しています。
ワクチンはすでにHPVに感染している細胞からHPVを排除する効果はありません。
初めて性交渉を経験する前に接種することが最も有効とされていますが、新しい感染を予防するという前提において、過去に性行為の経験がある方にもワクチン接種は有効とされています。
また、個人差はありますが、ほとんどの場合に約20~30年間は抗体が残るため、持続的な予防効果が期待できます。(通常はHPV検査を行いません。)
HPVワクチンの予防接種
HPVは180種類以上の型が見つかっているため、その全てに対してワクチンを接種することは困難です。そこで、発がんに特に強く関わっていると言われている高リスクな型(16、18、31、33、35、39、45、51、52、56、58、59、68、73、82)4)を中心にワクチンが接種されます。(ただし、高リスク全てをカバーできるわけではない)
現在、国内では以下の3種類のHPVワクチンが承認・販売されています。
まずは効能・効果や男女への適応が異なります。
各HPV型に起因する 以下の疾患予防 |
サーバ リックス (2価) |
ガーダシル (4価) |
シルガード9 (9価) |
---|---|---|---|
子宮頸がん及びその前駆病変 | 〇 | 〇 | 〇 |
外陰上皮内腫瘍及び膣上皮内腫瘍 | × | 〇 | 〇 |
肛門がん及びその前駆病変 | × | 〇 (男女) |
× |
尖圭コンジローマ | × | 〇 (男女) |
〇 (女性のみ) |
いずれも合計3回の投与を行いますが、投与間隔が少し異なっています。
サーバリックス (2価) |
ガーダシル (4価) |
シルガード9 (9価) |
|
---|---|---|---|
製造販売元 | グラクソ・スミスクライン | MSD | MSD |
発売年 | 2009年 | 2011年 | 2021年 |
HPV型 | 16、18 | 6、11、16、18 | 6、11、16、18、31、33、45、52、58 |
予防できる疾患 | 子宮頸がんと前駆病変 | 子宮頸がんと前駆病変 外陰上皮内腫瘍1/2/3と膣上皮内腫瘍1/2/3 肛門がんと前駆病変 尖圭コンジローマ |
子宮頸がんと前駆病変 外陰上皮内腫瘍1/2/3と膣上皮内腫瘍1/2/3 尖圭コンジローマ |
投与方法 | 筋肉内注射 (0/1/6か月目) |
筋肉内注射 (0/2/6か月目) |
筋肉内注射 (0/2/6か月目) |
接種対象者 | 10歳以上の女性 | 9歳以上の者 | 9歳以上の女性 |
公的助成 | 小学校6年生~高校1年生相当の女性 (対象者のみ公的助成が受けられる) |
任意接種 | |
接種費用(※) |
取り扱いなし | 17600円(税込) 公費の場合、無料 |
33000円(税込) |
※ガーダシル、シルガードは接種初回時に別途問診代がかかります。
添付文書などをもとに作成
■診察・接種費用
初診料
2,200円(税込)
初めてHPVワクチン接種を受ける方
ワクチン問診料
1,100円(税込)
- 初回もしくは2回目までを他の医療機関で受けた方
- 医師との面談を希望される方(HPVワクチン接種に関連する質問のみ)
注.ワクチンは発注後のキャンセルができないため、ご予約後のキャンセル・返金はできませんので、ご理解いただいた上で、ご予約をお願いいたします。
万が一、予約した日の都合が悪くなってしまった場合は、予約日から1ヶ月以内での変更が可能です。
■作用機序(シルガード9)
HPVは環状構造の二本鎖DNAウイルスに分類されています。
ウイルス表面(殻)はL1タンパク質によって形成されていて、それを補助するL2タンパク質が存在しています。そして内部には核とDNA(環状二本鎖DNA)があります。
シルガード9は上記のうち、L1タンパク質のみで形成されるウイルス様粒子(VLP:virus-like particle)を含有している薬剤です。
もちろん、シルガード9は核やDNAを有しないため、感染力は全くありません。
ワクチンとしてシルガード9を投与すると、体内の免疫細胞によってHPVに対する免疫を獲得します。その結果、将来HPVには感染しないと考えられます。
■副反応(作用)
接種後は急な副反応が起きることがありますので、すぐに帰宅せず30分程院内で安静にしてください。
4価ワクチンと比較した国際共同臨床試験では、4価ワクチンと同等のHPV6、11、16、18型の感染予防効果を示した上、HPV31、33、45、52、58型への感染を9割以上減少させました。副反応は4価ワクチンと同程度で、海外と日本人集団での差も見られなかったといいます。
重篤な副反応(作用)
実際に報告されていた重篤な副反応は厚労省のHPに載っていますが、頻度は低いです。
病気の名前 | 主な症状 | 報告頻度※ |
---|---|---|
アナフィラキシー | 呼吸困難、じんましんなどを症状とする重いアレルギー | 約96万接種に1回 |
ギラン・バレー症候群 | 両手・足の力の入りにくさなどを症状とする末梢神経の病気 | 約430万接種に1回 |
急性散在性脳脊髄炎 (ADEM) | 頭痛、嘔吐、意識の低下などを症状とする脳などの神経の病気 | 約430万接種に1回 |
複合性局所疼痛症候群 (CRPS) | 外傷をきっかけとして慢性の痛みを生ずる原因不明の病気 | 約860万接種に1回 |
※2013年3月までの報告のうちワクチンとの関係が否定できないとされた報告頻度